アラヤ式 映画紹介_Magazine POST

観た映画を気まぐれに紹介していくページです。

【映画紹介】第1回『ディック・ロングはなぜ死んだのか?』

 

1.Prologue
 ディック・ロング。「冗談みたいな名前だな、誰だこれ撮ったのは」と思って覗いてみれば、監督はダニエル・シャイナート。『スイス・アーミー・マン』でダニエル・ラドクリフをおならジェットスキー(!)にして、我々が持つポッター像を粉々に粉砕したヤバい御仁です。もう既にこの時点で、ヤバい気配しかしません。ヤバいね!

 しかもキャッチコピーは、「ディック・ロング、逝く!」です。

 あまり野暮なことは言いたくないけど、その手のネタが苦手な人は触らない方がよろしい。あと、親や彼氏彼女と行くのも考えた方がよろしい。
 どうしてかって? 訊かないでくださいよ、破廉恥な。


2.Outline
 舞台は、アメリカ南部のいなか町。
 ジーク・アール・ディックの三人は、バンドの練習と称して夜な夜なバカ騒ぎを繰り返していた。それが起こった夜も、彼らは酒を飲んだり、股間にロケット花火を挟んだり、実弾で射的ごっこをするなどして羽目を外していた。ディックの身に悲劇が起こるまでは。

 画面が切り替わると、ジークとアールの二人が自家用車でディックを運んでいる。「死んだか?」「まだ息はある」などと会話しながら、二人が向かったのは町の病院。

 彼らは人目を忍びながらディックを運び、そして病院の前に置き去りにしてしまう。その場にいたドクターが処置を行なったものの、ディックが負った傷はあまりに重く、翌日には帰らぬ人となってしまう。

 ――ジークたちは何故、自身の関与を揉み消そうとするのか。ディックは何故、死んでしまったのか。嘘が嘘を生み、やがて彼らの偽証は破綻を迎える。

 と、ここいらがシリアスに説明できる限界ですかね。
 だって皆さん、思い出してみてください。この作品のタイトル、なんでしたっけ。そうです、『ディック・ロングはなぜ死んだのか?』です。

 監督は誰でしたっけ? そうです、シャイナート監督です。ダニエル・「ジェットスキー」・シャイナート。シリアスで終わる訳がない。

 というか、ディックの死の真相が明らかになるほど、この作品が謳う「ダークコメディ」っぷりが露わになります。ジークたちがジタバタするほど、おバカになっていきます。それを楽しむ映画です。さあ、バカを観に行きましょう。


         ※以下、ネタバレ要素を含みます。


3.Sentiments
 真面目に考えてみると、「人ってのは多面的な生き物でね。相手によっては夫だったり、父親だったり、悪友だったりと色々な顔を持っている生き物なんだ。そしてその全てが、紛れもなくその人自身なんだ。『人って計り知れないね』」という風になるかもしれない。ならないかもしれない。

 なぜなら、ディック・ロングは馬のコメットに直腸を破られて死んだからです。分かりやすく言い換えましょう。ディック・ロングの死因は、コメットのロングディックです。

 ああ、駄目だコレ。たぶん、どう言っても酷い。開き直ろう(笑)。
 登場人物たちも、このあんまりに「あんまり」な死因に、どう反応したものか困惑していました。ジークの妻・リディアなんか事の真相をジークから聞いた時、表情が凄いことになっていました。

 ディックの倒錯した趣味に付き合っていた夫への「侮蔑」。
 事実を隠蔽し、家族を騙そうとした夫への「怒り」。
 そして、ディック・ロングの死因がコメットのロングディックだったことの「可笑しさ」。

 これらの感情が、まぜこぜになって現れたのです。
 リディア役のバージニアニューカムは見事に、人類の表情筋が持つ可能性を見せつけてくれました。あの表情こそ、この作品を体現したものであり、最大の見所(言い過ぎか?)です。MVPを送りたい。

 あと見所と言えば、ディックの妻・ジェーンがコメットの毛並みを撫でながら、ジークと会話するシーンも外せません。

「夫は浮気をしていたの?」と問うジェーンに、ジークは首を振ります。
「いや、浮気はしてない」


 そうでしょうとも。客席各所から笑い声が漏れました。ぼくも笑いました。

「奥さん。貴女のディックが熱を上げていたのは、そこにいる牡馬のコメットです」「彼はコメットのディックに夢中でした」「貴女のディックは、コメットのディックで死にました」「貴女が撫でている馬は、ディックの仇で情夫です」

 そうは言えないジークの心中は、如何ばかりだったでしょうか。
 誤解を恐れずに言えば、こういう不謹慎なユーモアはアラヤ好みです。


4.Tips
 ・ディック役はシャイナート監督だそうです。最初、気付かなかった。
 ・ジークの娘・シンシアが可愛いです。
  リディア(母親)が口走った「ピー音」待ったなしの台詞を聞き取って、執拗なまでにジークに意味を訊ねます。子どもは純粋で良いなぁ(濁った目)。
 ・『ダークナイト』のパンフをゲットしました。思わぬ戦利品。
 ・ただし、『ディック・ロング~』のパンフは入荷してませんでした。ちくせう。

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 こんな感じで、映画の感想めいたものを書いていきますんで、引き続きどうぞ宜しく!
 
まずは是非、ロングディックを観てくださいね。
 じゃなかった。是非、『ディック・ロングはなぜ死んだのか?』を観てください(ゲシュタルト崩壊)。おすすめですよ。